予約相次ぐ水耕栽培トマト

設備と豊富な経験 融合

相原 光貴記者(福井大学 3年)

 「農業」と聞くと、太陽の光を浴びた広大な田園風景や畑を思い浮かべたり、収入が天候に左右される不安定な職業といったイメージを持つ人もいると思う。私もその一人だった。
 取材で訪れた坂井市春江町安沢の農業法人「アグリ・エス・ケー」は、稲作をメインにしながらも、ミディトマトの栽培にも力を入れ、常連客から予約が相次ぐほどの人気を誇る。もともと田んぼだった場所に鉄骨の大型ビニールハウスを建て、約2年前から水耕栽培している。その設備は自分が持っていた農業のイメージとは懸け離れたものだった。
 土足禁止のハウス内には、千本ものトマトがずらり。さらにいくつもの装置がトマトのために動いている。肥料を含んだ溶液が7分おきに自動で送られ、ハウスの天井や遮光カーテン、保温カーテン、暖房が湿度、温度に応じて自動で動き、光合成に必要な二酸化炭素は午前6、8、10時に調整される。
 そのため、トマトは季節に関係なく収穫できる。別のビニールハウスで行っている土耕栽培に比べ、1棟当たりの生産量は大幅に増えたという。
 これだけ設備が整っていれば、素人の私でもすぐに農業ができそうに思えてきた。しかし話を聞くと、ここのトマトが人気なのは設備が整っているだけではないことが分かった。
 「なぜ大型ハウスでトマトを作り始めたのですか」と質問すると、小林利明社長(66)は「農閑期の冬にも仕事が必要だし、ハウスの中は暖かい」と冗談交じりに答えていたが、スタッフの牧野典代さん(40)は「もともと土耕栽培で15年ほどトマトを作っていて、その評判が良く、注文に生産が追いつかないようになってきたことも理由の一つ」と教えてくれた。
 話を聞くまでは、便利な設備のインパクトが大きくて、簡単な作業だけをしていると勝手に思っていた。でも、全くそんなことはなかった。余計な枝や花を切り取るのは手作業だし、実は真っ赤に熟してから収穫し、顧客に届けるというこだわりもあった。
 予約が絶えないほど人気なのは、十分な設備と豊富な経験という“鬼に金棒”のトマトだからこそだと思った。

※ 本記事は、平成30年12月26日付福井新聞に掲載されました。