広域営農 全国初の組織

米どころ支え なお進化

篠崎 怜央記者(福井大学 4年)

 8集落の131戸が参加し、水田面積180ヘクタールの広域作業受託組織として1998年に設立された大野市の「アバンセ乾側」。集落の枠を超えた営農組織は今でこそ増えてきているようだが、20年前はまだ珍しく、アバンセが全国初という。
 取材で訪れると、このような山あいの地区から全国初の組織が誕生したということに正直驚いた。2000年には農事組合法人となり、現在は9集落で250ヘクタールの耕作面積となっている。
 アバンセの最も大きな特色は、個人や集落単位で営農するのではなく、集落ごとの組織を大きく一つにまとめて広域的に営農を行っている点だ。現在の農業の現場では担い手不足と高齢化が問題になっている。そういった問題に対して広域営農は一つの解決策になり得ると考える。アバンセは作業や機械運用の効率化を行い、個人や集落単位では難しかった営業活動もしっかり行うことができている。
 また、担い手のいない田んぼを組織的に運営することにより、耕作放棄地の減少にも貢献している。さらに、専従の職員を雇用するなど健全な経営が行われており、同じ問題を抱える全国の農村にとって素晴らしいモデルケースになっているようだ。実際、県外からの視察は多いといい、これから広域営農を行う地域はますます増えていくだろうと感じた。
 今でこそ先進事例として注目されているが、1996年から組織化に向け尽力した西川文人代表(78)に話を聞くと、「農家に納得してもらうのは大変だった」と振り返っていた。前例のない取り組みは、住民の反発も大きかったのだろう。それでも「今は組織化して喜ばれている。やってよかった」と話していたのが印象的だった。
 アバンセのもう一つの特色は、コメの種もみの生産が多いことだ。コシヒカリやいちほまれなど県内の生産量の6~7割を占めているという。JAテラル越前の調製施設には、出荷を控えた種もみが山積みになっていた。アバンセは米どころ福井の基盤を支える重要な役割を担っていることが分かった。
 アバンセはフランス語で「前進する」の意味。全国に先駆けた組織をつくっただけでなく、米粉パンを製造販売するなど、今なお進化している。農業法人として利益を出しながら運営する仕組みは、若者や農業界にいなかったような人材が農業に携わるきっかけになり、農業にポジティブな変化がもたらされるのではないかと感じた。

※ 本記事は、平成31年2月8日付福井新聞に掲載されました。