86歳で観光ミカン園経営
来園者の笑顔励みに
加藤 沙也果記者(仁愛大学 3年)
日本海を望む高台を登るとミカン園が広がっていた。敦賀市東浦地区にある下野長兵衛園は、下野寿栄子さん(86)が営む観光ミカン農園。約200本の木が植えられ、農園には毎年千人を超えるお客さんが訪れる。取材に訪れた11月末も大勢の子どもたちや家族連れでにぎわっていた。
東浦地区では江戸時代の終わりごろからミカン栽培が始まり、明治時代には敦賀港からロシアへ輸出するまでに成長した。1970年代に観光ミカン園ができ、現在は元比田と大比田の農家8軒が営んでいる。敦賀は、おいしいミカンができる北限地と言われているそうだ。
ミカン作りは1年を通して行われる。冬は消毒したり、肥料を与えたり、雪が降れば枝葉に積もった雪を払う。夏は剪定(せんてい)や摘果(間引き)があり、炎天下の作業で何度も熱中症になるという。86歳で、これらの仕事をほぼ1人でこなしているというから驚きだ。下野さんは「ミカン作りで健康をもらった。風邪もひかないし、病院には何年も行っていない。頭が痛くても1日寝れば治る」と力強かった。
東浦地区の他のミカン園は後継者がいないところもあるそうだが、下野さんの農園は長男の浩稔(ひろとし)さん(59)が経営を引き継ぐことが決まっていて、今も週末を中心に寿栄子さんを手伝っている。浩稔さんは「先祖代々つながってきて、おふくろの代で立派な農園になった。まだまだ自分は見習いの身だけれど、頑張っていきたい」と話した。
取材を終えた後、ミカン狩りを楽しんだ。「今年はたくさん雨が降ったからか、豊作で味も上々」と寿栄子さん。熟れていて、おいしそうなミカンを探してもぎ取るのは楽しく、貴重な体験になった。小さい子どもが採りやすいようにミカンの木を低めにしていたり、記念撮影用に収穫せずに実らせたままの場所を設けたりと工夫がされているのも印象的だった。
寿栄子さんは「毎年来てくれる人との会話が楽しく、手土産を持ってきてくれる人もいる。子どもたちの笑顔を見ると、来年もおいしいミカンを作らなあかんと頑張れる」と語ってくれた。明るくポジティブな下野さん親子と会話できるのも楽しみの一つ。これからも元気においしいミカンを作り続けてほしい。
観光ミカン園は11月末までで今年は終了している。
※ 本記事は、令和元年12月12日付福井新聞に掲載されました。