危機乗り越えた畜産家

和牛増やす戦略経営

内田 智也記者(福井県立大学 3年)

 坂井市三国町西今市にある黒川畜産では、和牛(若狭牛)50頭、F1(交雑種)90頭、子牛を産ませるための繁殖牛(母牛)10頭を飼育している。現在は徐々に、1頭あたりの販売価格が高い和牛の飼育数を増やしているのに加え、子牛価格が高騰していることから自前での繁殖数を増やして利益拡大を目指している。他にも、堆肥や稲わらを製品化して販売している。
 代表の黒川清和さん(64)は、18歳の時に両親の下で畜産を始めたという。牛舎に案内してもらうと、想像以上に大きな牛たちが、すぐ触れるほどの距離にいて圧倒された。黒川さんは常に明るい表情をしていて、牛の世話を楽しそうにしていた。
 以前には廃業する危機もあったそうだ。輸入している飼料代が円安によって高くなり「(事業を)やればやるほど赤字」の状態になってしまった。実際に廃業を考え、飼育数を30頭まで減らした。
 しかし黒川さんは「牛がいなくなってしまったら自分には何も残らない。寂しいから楽しみのために」と、和牛10頭の飼育を始めた。すると「自分は恵まれた環境にいることに気付かされた」という。種付けへの助成など、他県に比べて畜産業への支援が手厚いことを実感し、気持ちを切り替えて経営を続けることにしたそうだ。
 経営方針も切り替えた。以前は乳用で肉としては価格が安いホルスタインを300頭飼育していた時もあり、「薄利多売の状態」だった。環太平洋連携協定(TPP)や米国との貿易協定で安い輸入牛肉が増えてくることも考え、高品質の和牛の飼育数を増やして差別化を図ることにした。経営が再び軌道に乗り、息子の貴大さんが継ぐことも決まった。先を見据えて戦略的に経営する姿勢に感銘した。
 畜産は地元の反対があっては発展できないという。黒川さんは地元愛にあふれる人で、除雪ボランティアや神社への寄付などさまざまな活動を積極的に行ってきた。黒川さん自身が今、生活できていることに感謝しているからこそできているのだと感じた。この姿勢がきっと、地元の人々の理解につながっているのだろう。取材をしてみて、黒川さんの人柄が印象的だった。黒川さんの畜産業を愛する熱い思いが成功につながったのだと感じた。

※ 本記事は、令和元年11月14日付福井新聞に掲載されました。