曽祖父のおにぎり
第46回「ごはん・お米とわたし」作文・図画コンクール
福井県農業協同組合中央会 会長賞
越前市武生南小学校 6年 川 本 一 翠
私には忘れられないご飯がある。それは曽祖父の大きな大きなおにぎりだ。
父が交通事故にあった。母は、帰って来なかった。曽祖父と一緒に待っていた。音も聞こえず、全部が白黒のような景色で、身体も心も冷え切っていた。
何か食べようということになった。曽祖父は細いうでで大きな大きなおにぎりを作ってくれた。あまりに大きなおにぎりに姉と笑った。でも、おにぎりを一口食べたら、体と心に、色がもどった。なみだがどんどんあふれてきて、わんわん泣きながらみんなで食べた。やっと命がもどったような感じがした。
そして、父も色々なことがあったけれど、回復した。とても辛い時間だったけれど、あの時の曽祖父のおにぎりのことを何度も言って、何度も笑って、回復してからもずっと心に残っていた。笑ってはいたけれど、あのおにぎりのおかげで全部がうまくいったような気持ちでいた。
曽祖父は、ずっと元気なままだった。いつも、学校から帰ると、必ず曽祖父の部屋にいって、「ただいま。」を言った。にこにこのしわしわの顔で「お帰り。」とむかえてくれた。その後、いつもおいしいものを用意してくれていて、私と姉に食べさせてくれた。
でも、その曽祖父が肺炎になって入院した。あっという間に酸素呼吸器をして、意識がなくなった。
曽祖父の「お帰り。」がない家は、何もないみたいだった。そして、また、父の交通事故のような音も色もないような感覚になった。ひたすらこわかった。
その時に、あのおにぎりを思い出した。
私の気持ちをもどしてくれた大きなおにぎり。意識がない曽祖父のところに持って行こうと決めた。曽祖父も、あのおにぎりだったら、思い出して、意識がもどるかもしれない。笑ってくれるかもしれない。泣きながら作った。食べられないかもしれないけど、あの時のように、私と曽祖父に色をもどしてくれたらと思って、私の命も少しでも入るようにとも思いながら作った。
病院に行くと、曽祖父につながっていた心臓の機械の線は、一本になっていた。
「いやだ。もどってきて。」
何を言ったか覚えていないけれど、おにぎりを持ったままとにかくさけんでいた。
機械の線が一つだけ、山を作ってくれた。曽祖父が心臓を動かしてくれた。
「覚えているよ。お帰り。大丈夫。」
曽祖父がそういってくれているみたいだった。食べてもらえなかったけれど、あのおにぎりは、曽祖父にとどいたんだと信じている。
曽祖父の命日には、おにぎりを作って、いつも一緒に仏だんの前で食べている。あのおにぎりは大すきだけど、あのおにぎりは今も私と曽祖父をつないでくれている。